「ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」

全体として非常に丁寧に書かれているのでみんな買ってください。

 

前提とするのは高校生レベルの知識とはいえ、自分が高校生のときの能力で読み通すことができたかと思うときつそうな気がしますが。

 

著者にはまた、「ガロア理論の頂を踏む」のような本を出してほしいです。

「ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 488~493

ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 488~493 では具体的な方程式x^5 - 6x + 3=0のガロア群が S_5に同型で解が根号を用いて表されないということを示している。なんとなく駆け足感が否めない。

 

まず、定理6.11のコーシーの定理について

ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 490 引用ここから「

他の個数の元で同じグループになることはあるでしょうか。5が素数なので、そういうことは起こらないのです。

」引用ここまで

S={ (x_{1}, x_{2}, …, x_{p}) | x_{i}∈G, x_{1} x_{2}]…x_{p}=e }で、Sの元で巡回して同じになるものを1つのグループとしてみるということをしている。

 

巡回して同じになるものはあるかを考える際、素数個の(a_1, …, a_p)を考える出発点とするとよくわからなくなる。

 

nを適当な数として、

(a_1, …, a_n)を1つ巡回させて同じになったら、2つ巡回させて同じになったら…というように考えるとよい。すると、i個巡回させて初めて同じになったとすると、nはiの倍数であるということがわかります。すると、素数個の(a_1, …, a_p)を巡回させた場合1個巡回させて初めて同じになるか、p個巡回させて初めて同じになるかのいずれかということがわかります。

 

 

ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 493 引用ここから「

Gは位数5の元を持ちます。これをσとするとσ^5=eです。GがS_5の部分群であることを考えると、σは長さ5の巡回置換にになります。

」引用ここまで

 

σは長さ5の巡回置換になりますということは、以下のように考えればよい。

川久保勝夫著「線形代数学」第1版9刷のp69にあるように、任意の置換は、共通の文字を含まないいくつかの巡回置換の積としてあらわされ、この表し方は積の順序を除いて一意的である。

S_5の元は、巡回置換の積で例えば、(1, 2, 3)(4, 5)や(1, 2, 3, 4, 5)のように表されます。S_5の元で、長さ2~4の巡回置換を含むようなものは、5乗したときに単位元になりえない。σ単位元ではないので、長さ5の巡回置換であるといえる。

 

ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 493 引用ここから「

次にS_5=<τ, σ>を示しましょう。

」引用ここまで

特殊な場合についてのみS_5=<τ, σ>を示している感がなんとなくした。可能な限り一般化して示したい気がする。

 

σ=(1, a_1, a_2, a_3, a_4), τ=(1, a_2)のようにすると、

σ^{-1} τ σ^{1}=(a_1, a_4)

σ^{-2} τ σ^{2}=(1, a_3)

σ^{-3} τ σ^{3}=(a_2, a_4)

σ^{-4} τ σ^{4}=(a_1, a_3)

 

1   a_2   a_4   a_1   a_3

 |      |        |       |         |

というあみだくじを考えると、S_5=<τ, σ>であることがわかる(p164参照)。

「ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 480

ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 480 引用ここから「

 F_{i}/F_{i-1}の拡大次数を n_{i}とおきます。

 n_{1}, …,  n_{s}の最小公倍数をnとして、1の原始n乗根ζを拡大列に加えます。

Q(ζ)= F_{0}(ζ)⊂ F_{1}(ζ)⊂…⊂ F_{s}(ζ)= L(ζ)

 すると、 F_{i}(ζ)/ F_{i-1}(ζ)の拡大では、 F_{i-1}(ζ)に1の原始 n_{i}乗根が含まれていますから、定理6.5より F_{i}(ζ)/ F_{i-1}(ζ)はべき根拡大になります。

 つまり、 F_{i}(ζ)は、 F_{i-1}(ζ)にx^ n_{i}- a_{i}=0の1つの解 n_{i} a_{i}を加えて、 F_{i}(ζ)= F_{i-1}( n_{i} a_{i}, ζ)と表されています。 

」引用ここまで

 

f(x)=0のガロア群が可解群であるという前提なので、 F_{i}/ F_{i-1}が巡回拡大なのは良いが、そこからただちに F_{i}(ζ)/ F_{i-1}(ζ)が巡回拡大といえるのか、感覚的にはそうなりそうだがそれほど明らかでもない。

 

例えば(巡回拡大ではない例だが)、Q(√2, √3)/Qはp339から議論したようにガロア拡大だが、1の原始2乗根である1/√2≡ζとすると、Q(√2, √3,ζ)/Q(ζ)=Q(√2, √3)/Q(√2)となり、ζを加えるという操作で拡大列がどのような影響を受けるか考える必要がある。

 

これは以下のように考えればよい。

(1) F_{i-1}∋ζの場合(当然ながら、 F_{i}∋ζである)

 F_{i}(ζ)/ F_{i-1}(ζ)= F_{i}/ F_{i-1}なので、 F_{i}(ζ)/ F_{i-1}(ζ)は巡回拡大である。

 

 

(2) F_{i-1}にζが含まれず、 F_{i}∋ζの場合

 F_{i-1} F_{i-1}(ζ) F_{i}= F_{i}(ζ)

であり、

 F_{i}/ F_{i-1}= F_{i}(ζ)/ F_{i-1}ガロア拡大なので、 F_{i}(ζ)/ F_{i-1}(ζ)もガロア拡大であり、Gal( F_{i}(ζ)/ F_{i-1}(ζ))は、Gal( F_{i}/ F_{i-1})の部分群である。巡回群の部分群は一般に巡回群なので、 F_{i}(ζ)/ F_{i-1}(ζ)は巡回拡大である。

 

なお、拡大次数は n_{i}の約数であり、 F_{i-1}(ζ)上の方程式x^ n_{i}- a_{i}=0の1つの解 n_{i} a_{i}を用いて、 F_{i}(ζ)= F_{i-1}( n_{i} a_{i}, ζ)とできる。

 

(2) F_{i-1}にも F_{i}にもζが含まれない場合

 F_{i} F_{i-1}上のm次既約多項式g(x)=0の解βを用いて、 F_{i}= F_{i-1}(β)と表されているとする。g(x)=0の解を β= β_{1}, … β_{m}とします。すると、Gal( F_{i}/ F_{i-1})={ σ_{1}, …, σ_{m}}で、 σ_{i}(β)= β_{i}で自己同型写像が作れます。

 

 F_{i-1} F_{i-1}(ζ)⊂ F_{i}(ζ)= F_{i-1}(ζ, β)

である。

 

g(x) F_{i-1}上では既約でしたが、 F_{i-1}(ζ)上では既約でない可能性があります。 F_{i-1}(ζ)上でのβの最小多項式をh(x)とすると、g(x)はh(x)で割り切れます。h(x)=0の解は、 β_{2}, … β_{m}のうちのいくつかと、βとであるということがわかります。

 

 F_{i-1}(ζ)を不変にする、 F_{i}(ζ)= F_{i-1}(ζ, β)に作用する同型写像を考えます。p390で考えたように、βの移り先を調べてみることにします。βの移り先はh(x)=0の解しかあり得ないことがわかります。そして、これらはすべて実現できます。

 

 F_{i}/ F_{i-1}ガロア拡大より、 β= β_{1}, … β_{m} F_{i}に含まれているので当然に、h(x)=0の解は F_{i}(ζ)に含まれています。よって、 F_{i}(ζ)/ F_{i-1}(ζ)はガロア拡大となります。Gal( F_{i}(ζ)/ F_{i-1}(ζ))は、{ σ_{1}, …, σ_{m}}のうちのいくつかであることから、巡回群の部分群より巡回群です。

 

よって、 F_{i}(ζ)/ F_{i-1}(ζ)は巡回拡大です。

 

 

 

「ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 472, 474

ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 472 引用ここから「

前の節の定理でn次円分体Q(ζ)から、x^n - a =0の1つの解n√aを加えたQ(n√a, ζ)への拡大では、Gal( Q(n√a, ζ)/Q(ζ) )が位数nの巡回群になりました。実は、この定理の逆が言えるのです。

」引用ここまで

 

定理6.4を見ると、巡回群Gal( Q(n√a, ζ)/Q(ζ) )の位数は、nではなく、nの約数である。

 

ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 474 引用ここから「

Gal(L/K)はσで生成される位数nの巡回群であるとします。

」引用ここまで

Kが1の原始n乗根ζを含む体と定理6.5中に記載しているが

Gal(L/K)の位数がnであることが定理6.5中に前提として記載されていない点奇異に感じられる。

 

定理6.5については以下のように考えればよい。

Kが1の原始n乗根ζを含む体で、L/Kがガロア拡大で、Gal(L/K)が位数sの巡回群であるとき(sはnの約数)、

Kの元aがあって、Lはx^n-a=0の最小分解体となる。

」という定理が証明できる。

ξを1の原始s乗根とする。Kが1の原始n乗根を含んでいるので、Kはξを含んでいる。

Gal(L/K)={e, σ, σ^2, …, σ^(s-1) }

α = c + ξ^(s-1)  σ(c) + ξ^(s-2)  σ^2(c) +…+ ξ  σ^(s-1) (c)

すると、σ^i(α) = ξ^i α

σ(α^n)={σ(α)}^n= (ξα)^n=α^nより、α^nはσで不変でKの元である。

以下同様。

 

「ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 468

ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 468 引用ここから「

Gal( K(n√a)/K )は巡回群です。

」引用ここまで

 

当該ページの議論では、f(x)=0の解のうちn√a ζ^tのtが最小となる正の数をdとして、

σ(n√a)=n√a ζ^dとおくと、dがnの約数になる点については議論している。

n=sdとして、Gal( K(n√a)/K )の元として、σ, σ^2, …, σ^sが考えられる点については議論されている。

 

しかしながら、Gal( K(n√a)/K )の元がこれら以外に存在しないことについては議論がされていない。これについては以下のように考えればよい。

 

f(x)=0の解にn√a ζ^t でtがdの倍数とならないものが存在したと仮定する。すると、

τ(n√a)=n√a ζ^e (ここでe>dでeはdの倍数ではない)

とできる。

eはdの倍数ではないから、e=qd+r (ここで1≦r≦d-1)とできる。

σ^(-q) τ(n√a)=σ^(-q) (n√a ζ^e)=n√a ζ^(e-qd)=n√a ζ^r

これは、dの最小性に反する。

「ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 461

ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 461 引用ここから「

5乗する自己同型写像σ(ζ)=ζ^5は次のようにして求めました。

σ(ζ)=ζ^xであるとします。

9の原始根は2 or 5なので、2べき、5べきは、

2, 4, 8, 7, 5, 1 or 5, 7, 8, 4, 2, 1 (mod 9)

となりますが、これを5倍して

10, 20, 40, 35, 25, 5 or 25, 35, 40, 20, 10 , 5 (mod 45)

としたいわけです。

」引用ここまで

 

Q(ζ)/Qが累巡回拡大であることは一般論からいえているので、p457~462の記載にそれほどこだわる必要はないとは思っていますが、初見で意味を理解しかねました。

 

なぜわかりにくいか。ここではQ(ζ^5)/Q(ζ^45)=Q(ζ^45, ζ^20)/Q(ζ^45)を考えている。今までの計算では、Q(ζ^45)を不変にする同型写像を考える際、ζ^20の移り先を考えてみようとしていた(例えば、p390)。それがp460では、ζ^20ではなく、ζ^5の移り先を考えようとしていることにわかりにくさの原因があると思われる。

 

これは次のように考えればよい。ζ^20=exp(2πi/9)≡ξとする。単純に同型写像によるξの移り先の候補を考えると、円分多項式Ф_9=0の解であり、それらは、ξ, ξ^2, ξ^4, ξ^5, ξ^7, ξ^8の6つである。9の原始根が2, 5であることから、

σ(ξ)=ξ^2または、σ(ξ)=ξ^5とすれば、σ^6 = eのようにできる。

すなわち、σ(ξ)=ξ^2の場合

σ(ξ)=ξ^2 (これはζを用いると、σ(ζ^20)=ζ^40

σ^2(ξ)=ξ^4

σ^3(ξ)=ξ^8

σ^4(ξ)=ξ^7

σ^5(ξ)=ξ^5

σ^6(ξ)=ξ

 

σ(ζ)=ζ^xとすると、ζ^20は、

ζ^20ζ^{20x}ζ^{20x^2}→ζ^{20x^3}→ζ^{20x^4}→ζ^{20x^5}→ζ^{20x^6}

のように写される。ζは180乗根なので、20x ≡ 40 mod 180とすればよい。ここから、x ≡ 2 mod 9 (p461の下から2行目)が出てくる。

なお、xはp462にあるようにζ^45を不変にする条件も満たす必要がある。

 

 

 

気が向いたら、Q(ζ)/Qが累巡回拡大であることと、巡回群の直積について可解列を作れること(p179)との関連について、一般のζで示してみよう(本ではζが27乗根、16乗根、180乗根の場合で示していたがp^s * q^t * r^u乗根の場合で示すということ)。もしくは、p459では、特に理由も説明せずにQに1の原始4乗根、1の原始9乗根、1の原始5乗根を加えてQ(ζ)作ればよいとしているが、どうしてこれでよいのか考えてみよう。

 

 

「ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 445

ガロア理論の頂を踏む(石井俊全著)」p. 445 引用ここから「

定理5.36より、Gal(M/Q)~=S_4/<α>であり

」引用ここまで

この記述は、<α>S_4正規部分群ではないので誤り。

正しくは以下の通りだと思われる。

Q(s^2, t^2, u)⊂M

同ページにあるように[Q(s^2, t^2, u):Q]=12

24 = [Q(s, t, u):Q] = [Q(s, t, u):M][M:Q]

より、[M:Q]は、24の約数で、24未満のものである。Q(s^2, t^2, u)⊂Mであり、[Q(s^2, t^2, u):Q]=12であることから[M:Q]は12以上である。これらの条件を満たすものは、[M:Q]=12しかあり得ない。

<α>の固定体は、Q(s^2, t^2, u)である。